諸外国の福祉政策 (老いてこそ輝け・河合聰著から)


デンマーク
 デンマークの高齢者が世界一幸せなわけ
 こんな国が現実にあるのかと驚くくらいデンマークの福祉政策は充実している。
 「老老介護」や「介護疲れ」はデンマークにはない
 経済力や家族構成にかかわりなく、「必要な人に、必要なとき、必要なだけ、無料で」平等に専門家の援助を提供するのがデンマークの福祉政策の理念だそうです。
 出産費、病院の入院・治療費は無料。
 病院に付き添い者用の無料の宿泊施設があり、無料で食事が提供される。付き添いのために仕事に出れない日の給与も国庫から補てんされる。
 日本の「障害者自立支援法」では、サービスを利用した場合、原則1割の応益負担であるが、デンマークには「応益負担」という発想がない。
 障害者が必要とする介助を「個人利益」だとして負担を求める発想はデンマークにはない。
 高齢者の介護・看護はすべて公的に実施されている。スタッフが援助するのは高齢者のできない部分だけで、できる機能はそのまま継続して使うことで高齢者の生活の質が高まる。「できることは手伝わない。必要と判断されることには万全の対応をする」 自分でやればできることまで手助けしては残された機能も衰えを早め、生きる力も萎えていくということらしい。これが「デンマーク流のやさしさ」。
 デンマークには「高齢者委員会」というのが作られていて、60歳以上の市民が選挙権、被選挙権の直接選挙で選ばる自治体の諮問機関で、行政は高齢者分野に関する問題を決定する際、政策決定前に委員会の意見を聞く義務がある。
 デンマークの高齢者介護の主流は在宅ケアが基本であり、老人ホームなど、施設主義が基本の日本と比べて、学ぶべきものがある。
 デンマークにもホームレスはおり、多くはアルコール中毒、麻薬常用者、病気などで社会への適応を失った社会的弱者である。彼らも障害者年金か生活保護年金などなんらかの社会給付金を受けているし、医療は無料で、彼らが望むなら宿泊設備も提供されている。
 「福祉度世界一」と呼ばれる社会を作り上げた背景は、女性たちが、若者たちが、労働者たちが、それぞれ「自分が済みたい社会」作りに声をあげ、貢献してきた努力の積み重ねがある。
日本は「経済がよくなれば生活は豊かになる」、デンマークは、「生活が豊かになれば経済はよくなる」である。



スウェーデン
 デンマークとならんで福祉制度の充実した国。
 国民すべての生活が保障され、病人や障害者、高齢者への介護も保障されている。
 介護は在宅主義。自立した生活を送ってほしいという理念が根底にある。24時間、ホームヘルプサービスと訪問看護の医師と看護師の往診で、患者が希望すれば最期まで家で過ごすことができる。
 「可能な限り自分でできることは自分でする」ことが重視されている。自分ですることによって残存能力が保持され、自分でできることによって本人の精神的満足も得られる。
 スエーデンの医療費はほぼ無料。年間の上限が約1万2000円と決められている。それ以上は手術を受けても無料。外国人は有料。ただし、救急医療は無料。
 高齢者や障害者の介護、児童手当など、公費負担が原則となっていて、日本のように社会保険料や介護保険料などを支払う必要はない。
 年金制度もしっかりしていて、月約13万円、夫婦だと倍額支給で基本的な生活が保障されている。年金の掛け金を支払ってこなかった人にも最低年金(約9万円)が支給される。 さらに住宅手当も支給され、それで家賃のほとんどがまかなえる。 医療費も低いので、年金だけで生活できる。
 教育費は大学まで無料。給食費も高校まで無料。 小人数学級(1クラス20人程度)で手厚い教育がされるので塾通いが必要ない。
 スエーデンの消費税、生活用品25%、食料品12%、新聞など6%、家賃0%。
 
 北欧の福祉の充実に対して、「北欧は消費税が高いから」という言葉が返ってくる。 北欧諸国の福祉政策の充実は決して財源の有無の問題ではなく、充実した福祉施策を支持し協力する国民の意識の成熟が可能にしている。


 
ドイツ
 介護保険制度の財源は全国一律のみで、給付上限までは利用者負担はない。
 外来医療費約1400円の初診料と低額の薬代を支払うだけ。入院も少額の食費を支払うのみ。診療代、手術代、ベッド代は要らない。
 18歳未満は無料。保険料の滞納者から保険証を取り上げることはない。
 失業者や生活苦で公的医療保険に加入できない人には政府が負担して加入させるしくみになっている。
 出産育児休暇は12ヶ月間、給与の67%、最高で約28万円を国が保障する。両親が同時に育児休暇に入る場合は、それぞれ7カ月、合計14ヶ月支給される。
 年金の受給資格は保険料を5年以上納めていることとなっている。ただし、大学などの在学期間と育児期間は、保険料を納めなくても加入期間に加算される。
 教育費については、2006年までどこでも無料だったが、州・特別市で決められることになって以来、現在は無料10州、有料(半年約8万円)6州である。

イギリス
 公的病院の医療費は無料。対象はイギリス人であるが、救急の場合は外国人も無料。
 一般医でも6カ月以上住んでいる人は診療、薬代、検査料など一切無料。
 公的病院には支払い窓口はない。「会計」の窓口では通院に要した電車代、バス代などの交通費が支払われる。
 


各国の医療費の内容
 
OECD(経済協力開発機構)加盟30ヵ国中、医療費の原則無料の国
  イギリス、イタリア、オランダ、ギリシャ、スペイン、デンマーク、チェコ、スロバキア、ハンガリー、ポーランド、トルコ、カナダ、アイルランド、オーストリア、メキシコ の15カ国  アイルランド、オーストリア、メキシコの3カ国は一部高所得者は有料。
 定額制か実質的に低負担の国はアイスランド、スェーデン、ノルウェー、フィンランド、フランス、ドイツ、ポルトガル、オーストラリア、ニュージランドなど
 定額制のポルトガルは1回約300エン、スウェーデンは年間上限約1万2000円
 3割負担は日本だけ。健康保険料を支払えず滞納すると保険証を取り上げられ冷酷非情なやり方も日本だけ。
 フランスでは、生活に苦しい人の医療は無料。
 後期高齢者医療制度のように、医療を年齢で区別する医療制度も日本だけ。

 公的年金の受給に必要な加入期間は、イギリス、オランダ、フランス、ベルギーはゼロ年、ドイツは5年、ルクセンブルク10年、スペイン15年、日本25年。  日本の場合25年に1カ月でも不足すれば年金はもらえない。