『 白薔薇の剣 』

−最後の王女の騎士録−

 

目次    次へ

 プロローグ  白薔薇の騎士 −4−

しおりを挟む

 運命は繰り返されるか?
 その輪廻は断ち切られたと、そう思っていたけれども。
『定めだよ』
 かつて王に、まじない師はそう言った。
『すべては定めさ。選ぶのは我らじゃない。導くのはすべて』
 神の思し召すがままに。





「……カイン・ウォルツ。ここにもって、そなたに白薔薇の剣を授ける」
 大歓声が見ている。
 動けぬ王の代わりに、武大臣グレンがその剣を彼女に差し出す。
 白銀の鎧をまとった彼女は、彼らの前に跪き短く返事をしてそれを受け取った。
 グレンは口の端を強く結び、一瞬その肩をポンと叩きたい衝動に駆られたがやめた。
 ――今この場にて、この光景を見ているのは極々僅か。
 だがすぐに国全土に知れ渡ろう。
 ここで繰り広げられた戦い。そして『白薔薇の騎士』が生まれいずる過程。
 おろかな事だと、王は思う。
 だがもう退けぬ。
 何とした事か。
 これが定めだというのか。
(お前が男だったなら)
 ずっとそう思っていた。だが同時にこうも思ったんだ。
 姫でよかったと。
 だが。
「これはそながた選んだみち
「……」
「その剣を持つ事が何を意味するか、そなたはこれから思い知るであろう」
 オヴェリアは顔を上げた。
 そして初めて口を開いた。
「……心得ております」
 知れ渡るぞ。『白薔薇の騎士』が女であると。
(愚か者)
 剣など持って欲しくはなかった。
(そなたの母上は、)
「カイン・ウォルツ――いや、オヴェリア・リザ・ハーランド」
 その名に。聴衆はどよめいた。だが王はそれを無視した。
 覚悟を決めろ。その思いは誰へ向けたものか。
「その剣を手にしたそなたに、最初の任を与える」
 そのために、この会は催された。
 知っていただろう? お前は。
 剣を手にした者が何を課されるか。何のためにここに剣士が集められたのか。
 求められているのがにえだと。
 もう後戻りできんのだ。
 ――王は、搾り出すかのような声で。
 大臣たちは固唾を呑んでいる。
 ただ一人、武大臣のみはじっと冷静にオヴェリアを見つめ。
「……ゴルティアの向こう、黒き竜が現れた話は聞いておるな」
「はい」
いをなしている。このままでは直に、竜はこの世界を焦土と化そう」
 オヴェリアはじっと王を見た。
 王が愛したただ一人の女性と。同じ瞳で。
 王はそれに見つめられ、そして決意した。




「『白薔薇の騎士』オヴェリア・リザ・ハーランド。黒き竜討伐を命ずる」
「は」
「竜を仕留められるのは並みの剣にあらず。王家に伝わりしその剣でもって、必ず打ち倒せ」
「――仰せのままに」





 白い薔薇は、ふさわしい者を選ぶ。
 そして彼女は選ばれた。
 運命と。宿命に。
 オヴェリア・リザ・ハーランド。
 ハーランド建国史上初の女性騎士にして。
 ――最後の『白薔薇の騎士』。
 その戦いがここに、幕を開ける。

しおりを挟む


 

目次    次へ