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森 春美



その二


 玄関で靴を脱いでいるときに、十薬寺のご住職さんが奥から出てこられて「まぁー、 遅かったなぁー、心配して外まで何回も見に行ったんやで」との言葉を聞きましたと きには、私は嬉しさとホッしたのとで、涙がポロポロと流れました。そんな私を見て 「これは、ほんまに明日からも歩いて回れるのかなぁー」と、いつまでも心配して下 さいました。

 お風呂に入り、夕飯のなんとおいしかったこと。三人ともモクモクと食べ、とっとと 眠りました。

 しかし、お寺の朝は早い。五時に起きて、本堂のお経を聞いて朝ご飯を食べて、また 出発です。あぁーあ・・・。

 優しいご住職さんと記念写真を撮り、大きなリンゴをいただいて出発です。 このリンゴはとても大きくておいしくて、道端や土手で食べたときは本当に感激でし た。また住職さんは、荷物が重たかろうと、次の宿泊先の「ふじや」さんに運んで下 さいました。歩くお遍路にとって、背中のリュックはどんなに苦痛な事か。十薬寺さ んのご親切は、私達の胸にいつまでも残り、一生忘れられません。

 二日目の八番熊谷寺、九番法輪寺、十番切幡寺、十一番藤井寺は割りと早く、「ふじ や」さんに着いたのは四時頃でした。

 途中で菊の前で写真を撮ったり、京子の関心のある細川家由来の秋月城跡の写真を撮 ったり、疲れてトボトボ歩いている私の後ろ姿を、ママさんがおもしろがって撮った りしました。農家のお婆さんの接待でいただいた熟した柿を、ママさんは大変に喜ん で、切幡寺で腰掛けて食べていました。私は柿よりお饅頭が好きです。カンケイ、ナ イカ、ヘヘヘ・・。

 切幡寺から藤井寺に向かう途中の吉野川はすばらしかったです。四国巡拝を通して感 じたことは、四国の自然の美しさ、空の青さ、川の澄んでいること、山の緑の美しさ、 たんぼの嬉しそうなこと。都会の中にあるたんぼや、木や、山達は、排気ガスなどで とても苦しそうで、かわいそうだなと思いました。これは四国の人達一人一人の郷土 を大切にする心だと思いました。今も都会の喧噪の中で目を閉じると、四国の山や川 が目に浮かび、心がシンとします。歩いて回るお遍路だけが味わえる感動です。

 この日はゆっくりと夕飯をいただきました。ここの夕飯のおいしかったことといった ら、もう最高。三人ともご飯を三杯もお替わりしました。食後にワイワイとお喋りし ました。ママさんは仕事があるので、ここでお別れです。

 しかし私達は八十八カ所一番の難所の山越えが待っています。不安でいっぱいですが、 もう引き返せません。ママさんはきらくに「ははは」と笑って脅かしますが・・・。 後々帰ってからも、一番の思い出になったのは、この山越えであり、ママさんも、一 日仕事を休んでも、山越えすれば良かったと悔やまれていました。苦しい事ほど思い 出も深いものなのですね。

 朝の六時にご飯を食べて、リュックサックに「ふじや」さんで作っていただいたお弁 当を入れて、出発です。十一番藤井寺の本堂の奥に、十二番焼山寺へ向かうお遍路道 の矢印があります。それは一目見ただけで急な山の斜面で、「ここから山を越えろ!」 といわんばかりです。ママさんは名残惜しそうに、私達が登っていく後ろ姿を、カメ ラで撮られていました。私達も、何度も振り返り、手を振りました。でも内心は「も うーイヤ」・・・って感じです。へへへ。

 最初から急な登り登り・・・京子はきっと、先祖はリスかウサギだったのでしょう。 まるで水を得た魚のように元気です。山の中は京子と二人だけ。遍路道は一メートル ぐらいしかありません。誰もいない。音もしない。車の音も人の声も。二人だけ。本 当に山は二人だけ。京子は足が早く、二人の間は離れてしまいます。その時に立ち止 まると、お互いの金剛杖の鈴の音だけが、二人の心を安心させます。シンと静まった 山の中に、チリンチリンと鈴の音。山の中のお遍路道さん用の道しるべのどんなに嬉 しい事。山の中のなんと美しい事。道々にいられる石仏様を拝みながら、写真を撮り ながら、それぞれの思いを胸に、竹林の中、杉林の中、座りながら、寝ころびながら、 転びながら・・・帰ってからも、この山越えの事が一番の思い出です。

 四国の自然は、いつも私と共にいます。この山越えには、歩くお遍路だけが会える一 本杉お大師さんがいます。とってもかっこ良くて、私は惚れてしまいました。何度も 杉の木の下のお大師さんを、仰ぎ見てしまいました。

 この山の中で食べた、おにぎりとたまご焼きのおいしかったこと。やっぱり日本人は、 ごはんとお茶やね。ウンウン。「南無大師遍照金剛」、なむだいしへんじょうこんご う・・・、もくもく、モクモク、黙黙黙と歩きます。

 歩いてなんとか無事に山を越えて、十二番焼山寺に着きました。手前の民家でお茶と お菓子のお接待を受けました。歩く遍路にとって、土地の人達の暖かい笑顔や、子供 達のちょっぴり恥ずかしそうな「おはようございまーす」のご挨拶は、とっても嬉し いものです。有り難い事でございます。






その一
その三
その四
その五



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