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森 春美



その五



阿波福井駅でとうとう歩けなくなった私たちを、車で迎えに来てくれた旅館「富 庄」さんは、NHKテレビにも紹介されたという、おいしい海の幸を食べさせて下さ る、ご夫婦でなさっている旅館でした。豪華なお食事、暖かいお布団、優しいご夫婦、 最後の夜にふさわしく幸せでした。京子はこのご夫婦にとても気にいられ「息子の嫁 に」と言われました。本当に疲れた身体なのに、せっせと食事の後片付けを手伝う京 子の姿は立派でした。

お金が足りなぁーい

朝、ご主人の仕事の時間に合わせて出れば、JR阿波福井駅まで送って下さるという 事で、早起きして出発しました。そして、生まれて初めて海からの日の出を見ました。 私たちは「わぁーわぁー、キャーキャー」言いながら、その美しさに見惚れ、手を合 わせていました。これで私は富士山の御来光と海からの日の出とを拝めた事にな ります。感激です。しかし、朝に走っても遠い距離です。絶対に歩ける距離ではなか ったのです。あぁーコワ。

駅に着いて、御主人にお別れして、歩き始めました。二十三番薬王寺まで二十キロも あるのです。私はもう諦めて、何とか京子の歩幅に合わせて歩こうと努力しました。 途中、お船の形をしたレストランで休息して、また歩きだしました。京子は何故かニ ヤニヤしています。「ママ、もうすぐよ」「何がもうすぐよ。そんなん、喜ばせんと いて」「ふん、ほな、いいわ」途中、空バスの接待を丁寧にお断りして、身体にムチ 打って歩きました。なぜなら、今回のお遍路は、阿波徳島「発心の道場」二十三カ所 の最後が、目の前の二十三番薬王寺なんですもの。

あと一つあと一つと言い聞かせて歩けあるけアルケ・・・。すると急に賑やかな町並 みが現れ、お遍路さんがウジャウジャと。なんと着いたのです。二十三番薬王寺に。 「ネッ、言ったでしょ、もうすぐだって。ママの足も早くなっていたのよ」

ここは日和佐のウミガメの町なのです。とても賑やかで、お土産物屋、食べ物屋など が並んでいて、お遍路さんがワァーという感じでした。

 日和佐の海を背景に写真を撮りました。 瑜祗塔に入り、展示された資料を見ました。 そこの絵巻物に、人間が野原で死に、風雨にさらされ、着ている物が破れて裂けてゆ き、肉が腐りウジがわき、骨になり、その骨も砕けさらされ、その上に、美しい花が 咲いてゆく様が描かれていました。それは般若心経の「色不異空、空不異色、色即是 空、空即是色」だと思いました。襖のようなものに一枚一枚描かれていましたが、地 獄で苦しんでいる人たちの様子が描かれていました。でも、次の絵は、そういう人た ちも、天からお釈迦様が降りて来られて、浄土の世界へ連れて行かれる様が描かれて ありました。私はそれを見て、地獄に落ちた人でも、改心したり、行いが良ければ、 極楽浄土へ行けるのだなぁーと、ホッとしました。

 お参りを済ませ、納経所で最後のご朱印をいただき、食堂に入り最後のきつねうどん を食べました。ここで、やっと京子は凡人に返ったようです。目付きも変わりました。 きっとお遍路の間中、守り神が身体に入って引っ張っていたのでしょう。日和佐の駅 でお遍路の白衣を脱ぎ、駅のロータリーで」やったぁー」のVサインのポーズで写真 を撮りました。しかし、ここで財布の中を見てびっくり。電車の料金を見て二度びっ くり。
「えぇー、お金が足りなぁーい」帰りのフェリーの中での会話がおもしろい。
「京子ぉー、五百円貸してよー」
「えぇー、二百八十円しかないよぉー」
「えぇー、百円のコーヒーも飲めないのぉー」
横で聞いていた人達は、私たちの事を普通ではないと思ったかもしれません。なんせ、 ムチャムチャ汚いカッコをしていたんですもの。

今後の人生が楽しみ

 このお遍路手記は、自分自身のために、娘の由里のために、京子のために、キォール のママさんのために、書き綴りました。でも、お遍路の実行者の方達にも読んでいた だいたら嬉しいです。

 最初に書きましたように、四国巡拝は子供に伝え残してゆく事が、お遍路参りをした 人の役目なんではないかと思いました。帰ってきてからも、考えるにつれて、ご先祖 様が引っ張っているのではないかと、改めて感じました。

 自分のたった一度の人生において、四国巡拝に出かけられたこと、また今回の遍路だ けでも、振り返るにつれ、あの旅の事を思えば、「人生のどんな事でも、乗り越えた るやんけぇー」と思えたことは、とても良かったと思います。結願という目標がある だけでも、これからの人生が楽しみです。「川の流れのように」自然に素直に、人生 歩んでいけたらと思いました。

 今回の行程、阿波徳島「発心の道場」二十三カ所、二百十キロ、六泊七日、全日快晴 で暖かく、巡拝者の数も少なく、納経の時間もかからずに、最高のお遍路の旅を終え られたことを、神に、大師さんに、宿泊先の方々に、四国のあちこちで接待して下 さいました地元の方々、京子に、キォールのママに、感謝いたします。有り難うござ いました。きっと全行程を歩いて結願いたします。見守っていて下さい。


今回は、平成三年十一月に巡拝した、一番から二十三番までの日記です。
平成八年現在、六十四番まで巡拝しているようです。順次書き込んでい
きたいと思ってますのでお楽しみに。

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